Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”
「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、
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記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。
大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。
ドリアン・チョコから考える異文化の話
同僚が国際学会でシンガポールへ行ってきた。そのおみやげにと、教員ミーティングの場で現地の「マーライオン」の型をしたホワイトチョコレートが提供された。同席していた者は「ほう、シンガポールのものか。」と、それぞれに小さなチョコレートを口に運んだ。私にとっては久しぶりの「あの味」だった。その時である。隣にいた別の若き同僚が嗚咽を漏らした。実はそのチョコレートはドリアンのエキス入りで、強いドリアン特有のニオイがしたのである(下写真)。
ドリアンとはマレー半島原産の熱帯のクダモノで、実は大きければ30センチほどにもなる。そのニオイや味はというと、ご存じの方はご存じだろうが、独特で何とも形容しがたい。「フルーツの王様」とよばれながらも、一方では「悪魔のフルーツ」とも呼ばれる所以がそこにある。シンガポールにはそのドリアンをケーキやアイスクリームにして提供する店もあり、東南アジアではチョコレートを始め、様々な加工食品として出回っている。
上の同僚は強烈なドリアン風味のチョコレートを初めて口にしたものだから、「うぉっ!」という声を発したあと、それ以降はミーティングどころではなくなってしまった。ちなみに、ミーティングのテーマは1年次生のオーストラリア留学の件だった。
時季により日本のスーパーマーケットでも見ることができるドリアンだが、強い臭気のせいで、東南アジアではホテル等への持ち込みが禁止されているところもあるほどだ(写真2:タイ・バンコクにて)。チョコレートに入っていたドリアンエキスのニオイは、口の中はおろか部屋じゅうに漂った。この熱帯のクダモノは確かに手強い。未経験の方には、一度どこかで試食することをお勧めする。
本学に近い関西国際空港では毎日、海外からの多数の旅客を受け入れている。また日本から海外旅行者数はのべ1,700万人ほどだという(日本政府観光局 JNTO調べ、2014年)。これほど人的な交流が盛んになっても、まだ私たちが知らないことは数多くある。私が授業でいかに異なる文化や社会のことを語っても、「百聞は一見にしかず」だと感じることもある。ドリアンの味やニオイも同様で、自分で経験して初めて知るものなのだ。
だが、今回の例のように外国に足を運ばなくても体験できることがらがあるのも事実だ。このドリアン味のチョコレートもいざとなればネットで購入できるだろうし、加工食品ならばドリアンならずともたいていの東南アジア製食品が手に入る。いや、今や世界各地の食品が入手可能だといっていい。グローバリズム恐るべしだが、自国にいながら異文化体験ができる時代のメリットとデメリットとを把握した上で、今の学生には国外の異文化社会での実体験の重みについてもっと知る機会があってもよいと思う。まずは初めての海外留学の経験をする学生の背中をそっと押してやるのが、私の教員としての役目だろうか。
本学の1年次生は9月にはオーストラリアの地を短期留学生として踏む。自然や言語環境が違う異文化の地で、現地の他者とそもそもいかにコミュニケーションを図るのか、自国や自文化の外で自らの考えがどれだけ通用するのかなどなど興味深い点はたくさんある。彼らの試行錯誤には必ず意味があるはずだ。近年の若年層には「面倒くささ」から海外旅行にすら興味を示さない者がいるといわれるが、本来、見知らぬ人や土地・文化への不安と期待は表裏一体の関係にある。本学の学生には自ら英語による発信力を高めつつ、まずは短期留学や海外旅行から始め、異文化体験をし、現地で迷い、戸惑い、それをバネにする機会をたくさん持ってほしいものだ。
さて、このドリアン・チョコにまつわる話を、翌週のミーティングで当日欠席していた学部長にしたところ、「そういえば、台湾の友人が残していったみやげがある!」と、またまたチョコレートが出てきた。話のタイミングから、皆は「すわ、再びドリアン・チョコか」と驚愕(期待)したのだが、残念ながらそれは出てこなかった。隣に座っていた先の同僚はそれがドリアン・チョコでなくて、さぞ胸をなで下ろしたことだろう。