Tourism passport web magazine

学校法人 大阪観光大学

〒590-0493
大阪府泉南郡熊取町
大久保南5-3-1

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大阪観光大の学生や教員が運営する WEBマガジン「passport」

Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、 大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。 大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。

「他」に対する寛容さ

“Are you an Indian?”

これは私が以前、遠い昔に、カナダで先住民族(インディアン)の子どもに聞かれた質問です。彼からすれば、日本人の外見は自分と近いように思えたのでしょう。確かに、私たちはよく似ています。それ以来、「インディアン」は私にとって身近な存在となりました。

当時、先住民族については、「reserve」と呼ばれる特別な居留地に住んでいること、飲酒等により堕落した生活をしている人も多いこと、先住民族による犯罪が多いことなど、否定的な話を多く聞いていました。また、先住民族に対する様々な保障を逆差別と考える人もいました。そんな中途半端な知識のまま、その後、「カナダ」「先住民族」に触れることはほとんどありませんでした。

2019年夏、私は再びカナダに行きました。そこで聞いたのは、カナダでは、わずか25年ほど前まで、先住民族の子どもたちが強制的に親元から引き離され、寄宿舎生活を送ることを余儀なくされていたという話です。そして、帰国後、改めてカナダの先住民族について調べてみました。

カナダには、ファースト・ネーションズ(北米インディアン)、メティス(先住民とヨーロッパ人の両方を祖先とする人々)、イヌイット(北極地方の人々)の3グループが憲法で先住民族として認定されています[1]。その子どもたちは、1880年頃から1990年代まで、キリスト教の教会が運営する寄宿舎に強制的に入学させられていました。寄宿舎生活の目的は同化政策、つまり、彼らの文化や言語を否定し、西欧文明を強要することでした[2]。寄宿舎生活をしていた先住民族の子どもたちの中には、校長や教師に暴力や性的虐待を振るわれた人もいるということです[1]。その後、カナダのスティーブン・ハーパー首相は2008年に過去の同化政策について先住民族を「深く傷つけてきた」ことを認め、公式に謝罪しました[1]

翻ってみると、日本にもアイヌという民族が存在し、かつては同じように同化政策が行われていました。そして、2019年4月に「アイヌ新法」と呼ばれる法律が成立しましたが、そこでアイヌ民族を「先住民族」と初めて明記したということです。しかし、カナダにおいても日本においても、まだすべての問題が完全に解決されたとは言えないようです。

一方で、目を世界に転じると、少しずつでも前進している「先住民族」の問題とは反対に、様々な民族紛争が起こり、最近では人種差別的発言を耳にすることも増えてきているように感じます。「先住民族」問題の過去から現在に至るプロセスは、自分とは異なる「他」を受け入れることこそが、我々人間が進むべき方向であることを示しています。にもかかわらず、「他」に対する寛容さがなくなりつつある時代・・・今回のカナダ滞在は、そのことを改めて考えさせられるものとなりました。

カナダ・バンクーバーの街並
「トーテムポール」先住民族が紋章として用いるもので、動物や人などが刻まれている

[1] AMNESTY INTERNATIONAL JAPAN
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_canada.html

[2] イエズス会社会司牧センター
http://www.jesuitsocialcenter-tokyo.com/?page_id=7126

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