Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

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フィリピンのジープニー【斉藤講師のワールドレポート Vol.1】
どの国にも、その国らしさを表す交通文化があるものです。
典型的なものとしては、タイのトゥクトゥクやキューバのクラシックカーみたいなものでしょうか。
我が国の場合、おそらく“軽自動車”でしょう。660ccという限られたエンジン排気量と小さなサイズで町中をコロコロ走っている様子は、異邦人の眼には不思議な光景として映っているようです。
その国の人口構成や国土によって、交通文化は大きく異なります。
8月中旬に、語学学校で英語を勉強する学生を引率するため、フィリピンのマニラに行く機会がありました。
マニラは異例の豪雨で洪水が至る所で発生していたため、外出もままならなかったのですが、冠水なんか物ともせず、“ジープニー(Jeepney)”という乗り物が、エンジン音を轟かせながら走っていました(写真1)。
乗り物好きな私としても、この光景はとても興味深く、今回のフィリピン滞在で可能な限りジープニーを見て乗って体験してみることにしました。

写真1:フィリピンのジープニー
そもそもジープニーとは、フィリピン独特の乗合タクシーの一種です。中古トラックのシャシーやエンジンを流用し、その上にフィリピン製のボンネット型ステンレスボディをのせ、製造されます。それゆえに手作り感が満載であり、どのジープニーもデザインが凝っています。思い思いに絵を描いていたり、派手な装飾をしたり、無駄にランプを点滅させたりと、これらを眺めるだけでも飽きることはありません。ジープニーはそれぞれ行き先や経由地が決まっており、正面や側面などから判断するそうです(写真2)。ただ、地域の事情や土地勘がない外国人の私には、どこに行くのかイマイチわかりません。結局、ノリと勘で乗ることになります。

写真2:ネオンで照らされているジープニー。行き先は黄色く記されている
乗り降りは基本的に後部から行います。車内は狭く、左右の座席に向かい合って座ります。基本窓はないため、走るとガソリンの臭いが漂ってきます。雨が降ればビニールカバーを降ろし、雨を防ぐだけです。乗って行き先を伝え、料金を払います。料金体系は、初乗り運賃と、その後の距離料金で決まるそうですが、今回の滞在ではあまりうまく理解できませんでした。ただ、私のようなタガログ語を話せない外国人であっても、幾ばくかのフィリピンペソ硬貨を運転手に渡せば、なんとかなります。降りたいときは“ParaPo”といえば、止まってくれます。

写真3:乗り降りは後から 
写真4:運転席の様子
このジープニーは、後部タイヤの泥除け部分を見ると、結構な割合で車体を生産したメーカーの会社名が刻印されています(写真5)。これらに注目するだけでも、様々なビルダーがあることがわかります。今回の渡航では、ラスピニャスにあるサラオ・モーターズ(SARAOMOTORS)に見学に行くことができました。

写真5:このジープニーには”JAVELIN MOTORS”と刻印されている
見学したサラオ・モーターズは、ジープニーを生産する工場の中でも、老舗の部類です。入場料100ペソを支払えば、工場内を自由に散策できます。中では、生産中のジープニーの様子を見ることができるとともに、エンジンや運転席の様子など、ジープニーの細部まで知ることができます(写真6,7, 8)。職人が金槌で叩き製作したボディ、日本で使い古されたであろう5トントラック、手作り感満載のクラッチやシフトレバー、頼りなく見えるブレーキ……日本では、まず車検を通すことすら難しいでしょう。ですが、職人たちが生み出す車体は、一点ものの芸術作品のように見え、かえって魅力的にも感じます。

写真6:サラオ・モーターズのジープニー工場

写真7:製造中のジープニーの様子 
写真8:エンジンルームの様子。この車両の場合、いすゞ製のエンジンが搭載されている
フィリピンの象徴とも言えるジープニーですが、利用している人々の様子からも、フィリピンらしさを垣間見ることができます。私がジープニーを利用している際、人々は当たり前のように、運転手に運賃を支払うため、遠くの人から運転手まで、乗客たちによる運賃のリレーが行われます。外国人の私にも、当然のようにその役割が回ってきます。運転手から遠い場所に座っている人から、運転手まで、運賃の渡し合い、そして、時にはお釣りの渡し合いが、頻繁に繰り広げられます。ジープニーの中では、見知らぬ人同士であっても、当然のように人々の協力のようなものが行われているのです。そこには老若男女、関係がありません。
ジープニーで繰り広げられるこの光景は、私にとっては衝撃的です。異なる人との交流を事実上、強いられているからです。我が国の交通機関、特に電車内の場合、隣同士で座っても、まず話すことがありません。視線は基本スマホに向けたままです。もちろん、不便と言えばそれまでなのですが、なぜか、同じ空間にいるという居心地の良さを感じたものです。
誰とも関わらずに移動できる我が国の電車と、誰かとの関わりが移動に組み込まれるジープニー。同じ「移動空間」でも、そこでの人と人との距離は、ずいぶんと異なります。ただ、私がジープニーに惹かれたのは、その独特な佇まいだけでなく、誰かと関わらざるを得ない、この少し変わった仕組みなのかもしれません。
文責:観光学部講師 斉藤穂高
【斉藤講師のワールドレポート】は、旅好きの本学教員・斉藤穂高が、旅先で出会った風景や文化、人々の営みを、自身の体験を交えながら綴る不定期連載企画です。









