Tourism passport web magazine

学校法人明浄大学 大阪観光大学

〒590-0493
大阪府泉南郡熊取町
大久保南5-3-1

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大阪観光大の学生や教員が運営する WEBマガジン「passport」

Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、 大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。 大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。

インドネシア・バリ島の宗教と芸術

バリ島と言えばリゾート地という印象が強い。マリンスポーツ、グルメ、スパなどを楽しむために、盆や正月休みを利用して訪れた人も少なくないであろう。しかし、バリ島の楽しみ方はそれだけではない。この島ならではの宗教や芸術にふれてみるのも面白い。今回は、その一端を紹介してみよう。

1.バリ島の世界遺産と宗教

バリ島には、インドを起源とするヒンドゥー教や仏教が、8〜9世紀頃にジャワ島を経由して伝来した。ヒンドゥー教は、バリ島独自の土着文化と融合し、現在も信仰されている。インドネシアにおいてヒンドゥー教が残っているのはバリ島のみである。この島のヒンドゥー教は、インド本土のものと区別して「バリ・ヒンドゥー」とも呼ばれる。また、バリ島では仏教は遺跡のみが残る。
 バリ島にはいくつかの世界遺産が知られているが、その一つに仏教遺跡のチャンディ・ブッダ・ペグリンガン(Candi Buddha Pegulingan)がある。この遺跡は、国際空港のあるデンパサールから約48キロの所に位置する。青々とした田んぼの中の小道を行くと、こつ然と千年以上も前の古い仏塔がすがたを現わす(写真1・2)。元来、仏塔は、仏教の開祖である釈迦の遺骨を収めた土饅頭型の簡素な建造物であった。一方、インドネシアでは、ジャワ島中部の世界遺産ホロブドゥール遺跡(8~9世紀)にみられるような多数の仏像や浮彫彫刻を配した壮麗な仏塔が建造された。ホロブドゥールと比べれば、このチャンディ・ブッダ・ペグリンガンの仏塔(8世紀頃)はかなり小さい。しかし、それはホロブドゥールが造られたのとほぼ同時代に、バリ島にも仏教が伝わり信仰されていたことを示す貴重な文化遺産と言える。この遺跡からは、黄金の仏像、並びに、呪文・経文が刻まれた金属製の板が発掘されている。歴史に興味のある方におすすめのスポットである。

写真1 仏教遺跡チャンディ・ブッダ・ペグリンガン

写真2 仏塔

2.バリ・ヒンドゥーの寺院と儀礼

バリ島の人口の約8割はヒンドゥー教徒であり、寺院も多い。村の中心的寺院では、寺院建立記念の祭礼(オダラン)や弁才天の供養祭などが執り行われる。その際には、神々を寺院の聖所に迎え、新しい衣に着替えてもらい、供物を捧げ、最後に満足して帰っていただく。例えば、バリ島南部のギャニャール県にあるチャガル・ブダヤ(Cagar Budaya)寺院(写真3・4)には、バリ島内の様々な神々が集められ、礼拝、供養される。それは丁度、日本全国の八百万の神々が出雲大社に集められるのと似ている。

写真3 チャガル・ブダヤ寺院

写真4 チャガル・ブダヤ寺院

バリ・ヒンドゥーは、人々の人生の過程とも深く関係している。筆者は知人の紹介で、子供が一才になったことを祝う通過儀礼を観察することができた(写真5)。一般家屋の敷地内に一時的な聖所が設営され、そこでスリムプ(Sri Mpu)と呼ばれる高僧が、神々を礼拝、供養し、聖水を得る儀式を執り行った(写真6)。この儀式では一族の女性が歌を歌い、最後に参加者全員で子供に聖水をかけて祝福し、その健やかな成長を祈った。このように、バリ・ヒンドゥーでは聖水による人間や事物の浄化が重視されている。

写真5 一才の子供

写真6 高僧(右)とその背後で歌を歌う女性たち

3.バリ舞踊と宗教

バリ島の芸術を楽しむのであれば、舞踊を鑑賞するのもよい。芸術の町ウブドでは、旧王宮でバリ舞踊の定期公演が行なわれている。筆者が見学したのは、インド叙事詩『ラーマーヤナ』を題材とした舞踊である(写真7)。登場人物の台詞はスピーカーから流され、舞踊は打楽器ガムランの伴奏とともに演じられる。物語では、ラーマ王子(ヒンドゥー教のヴィシュヌ神の化身)はランカー島の魔王ラーヴァナによって妃のシーター姫を奪われてしまうが、神通力をもつ猿王ハヌマーンらの助力によって最後に妃を取り戻す。バリ舞踊では、指を小刻みに動かす手のしぐさや、機敏な目の動きによって登場人物の心理描写を行なう点が注目される。上演当日、シーター姫を演じるプリマドンナは、かつてウブドを治めていた王家の子孫であると紹介された。文字通り、本物のお姫様が演じるシーター姫であった。
 「チャッ、チャッ、チャッ」という掛け声で日本人にもよく知られているケチャは、ドイツ人画家のヴァルター・シュピーズによって1933年に『ラーマーヤナ』を題材として舞踊化されたものである。当時のケチャの様子は、ネカ美術館(バリ島・ウブド)所蔵の古写真(写真8)にも見出される(1939年11月、バリ島南部ギャニャール県のベダフル((Bedahulu)にあるサムアン・ティガ(Samuan Tiga)寺院において撮影)。ケチャは、悪霊の退散や病気治癒を目的とする宗教儀礼に起源があると言われ、人々は儀礼の最中に神に憑(つ)かれ、トランス状態(忘我の境地)に入ったとされる。
 現在、バリ島で観光客向けに演じられている舞踊はショー化しているが、元来それは人と神とが交わる神聖な行為であった。しかし、近年の観光ビジネスによって舞踊の本来の意味が薄れ、忘れられているように思えた。舞踊を鑑賞される方は、この点にも気づいていただければ幸いである。

写真7 「ラーマーヤナ」の舞踊における
ラーマ王子とシーター姫

写真8 ケチャの様子
(ネカ美術館所蔵の古写真)

文責・写真撮影:
観光学部教授 佐久間留理子(宗教学・哲学)

参考文献:
・立川武蔵『ヒンドゥー教の歴史』(宗教の歴史2) / 山川出版社(2014)
・宮尾慈良『これだけは知っておきたい世界の民族舞踊』 / SHINSHOKAN(1998)

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