DATE
2010年08月31日
カテゴリー
加藤ゼミ&コラム

印象派展イヤー(観光経済新聞連携コラム第5回)

大阪観光大学准教授 加藤 素明 (美学・藝術学、西洋古典学)

 今年2010年は東京でも関西でも、印象派とその周辺の画家たちによる絵画を特集した展覧会が数多く催されている。オルセー美術館(パリ)やボストン美術館が改装工事中のため、展示できないコレクションを貸し出しているというおかげもあるらしいが、この春から夏にかけて、オルセー美術館展2010「ポスト印象派」展(東京・国立新美術館)、「ルノワール-伝統と革新」展(大阪・国立国際美術館)、「マネとモダン・パリ」展(東京・三菱一号館美術館)、ボストン美術館展(東京・六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリー、京都市美術館)等々、東西あちこちの美術館がまるで競うかのように印象派やその系統にある画家達を取り上げた。
 また、秋からも東京・国立新美術館でゴッホ展(10月1日~12月20日)、横浜美術館でドガ展(9月18日~12月31日)が開かれる。また9月20日までだが、大阪・サントリーミュージアム[天保山]で「印象派とモダンアート」展が開かれている。

 こうしてみると、今年はちょっとした印象派展ブームとも言うべき状況になっている。だが、日本人の印象派好きは今に始まったことではない。かつて日本が開国して近代化をおし進めていた頃、当時の西洋絵画の新しい流れを作っていたのがフランスの印象派である。明治・大正の知識人達はこれを積極的に日本に紹介し、また「洋画」を事とする画家達は最新の油彩画の方法に学び、そうして日本人の新たな教養が形成された。
 そのせいでもあるのだろうか、今日私たちが「西洋美術」と言うと何となく18世紀から20世紀初頭のフランスを中心とした絵画を思い浮かべがちである。実際、それ以前のイタリア中心の宗教画・歴史画は美しいけれど内容に馴染みがないし、20世紀の抽象絵画はあまりにも難解で、いずれにしてもつい敬遠したくなるというのが日本人の本音かもしれない。
 その点、印象派は分かりやすい。色使いは明るいし、描かれているのはきれいな女性や花々、風景や建物である。何が描いてあるかは一目瞭然で、予備知識が要らない。しかも伝統的西洋絵画に独特な、一点遠近法による立体感にあまり固執していない。むしろ日本人には馴染み深い、事物をただ並べて描くかのような配置である。床の間の掛け軸や色紙の絵と比べても、空間構成にさほど違和感はない。

 こうした特質を持つ印象派絵画は、むろん当時の西洋では異端扱いされていた。伝統的絵画を守っていた陣営からは「印象を描いているだけ」と悪し様に言われつつ、それでも刻々と移ろいゆく「光」を表現すべく、様々な新しい絵画技法を採り入れて描いていたのが印象派の画家達なのである。
 印象派とは絵画藝術の一大変革だった。現代の美術はこの印象派以来の流れにある。その呼び名のきっかけになったのは、クロード・モネが描いた『印象、日の出』(1873)だと言われているが、そこから数えても130余年。130歳とは、藝術としてはまだまだ若い年頃だ。人に例えたら、青春時代の入口ぐらいかもしれない。そう言えば、現代の藝術は、もっと言えば現代の人間は、まるで青春時代のように行方定めぬ混沌の中にある。その出発点を顧みるよすがになるという意味でも、今年日本で行われている数々の印象派展は意義深いと言えるだろう。

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