Tourism passport web magazine

学校法人 大阪観光大学

〒590-0493
大阪府泉南郡熊取町
大久保南5-3-1

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大阪観光大の学生や教員が運営する WEBマガジン「passport」

Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、 大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。 大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。

タイ農村で出会った「暖かさ」― 分骨儀礼 ―

2013年の11月5日に逝去した北原淳さん(元神戸大学教授)の分骨儀礼がナコーンパトム県ナコーンチャイシー郡ワット・ラムット村で2014年の12月に執り行われた。

個人的にも、私のタイ研究の最も親しい仲間であり、その死は悲しみを通り越すショックであった。
生前「遺骨の一部をタイにも納めて欲しい」と夫人に話していたのを知った私は、その遺志を叶えねばと二人で調査に最もよく通っていた村落であるワット・ラムット村と相談し、分骨を受け入れていただいた。

当日は、朝から涼風が会場のワット・ラムット寺院を流れ、タイとは思われないほどのすがすがしい天気であった。
日本からは、夫人、子息、兄弟などの親族、さらには研究仲間や教え子などが列席した。タイ側も、研究者、大学関係者、村人など多数が参列し、盛大な式となった。
9時から始まったが、饗応なども含めてすべてが終了したのは正午を過ぎていた。9名の仏僧による読経が中心であったが、参列者は「聖糸」や「聖水」を通して遺骨に礼拝し冥福を祈った。また、遺骨は骨壺に入れられ、本堂の回廊の壁の中に氏名、生年月日、死亡年月日を添えた遺影とともに納められた。
北原さんは、心底好きだったタイの地で村人に見守られながら暮らすことになったのである。

分骨式が終わって日本人参列者が異口同音に述べた感想は、「村人の暖かさ」であった。前日からの会場の整備、食事の準備、当日のもてなしなどなどを通して、日本の葬儀では味わうことのできない「暖かさ」を経験した。
私は、帰国後、心を打つ「暖かさ」に満ちた儀礼の理由をあれこれ考えてみた、思い当ったのは、我々がその昔から調査でお世話になった元村長(故人)の親族集団、とりわけ、その8名の子(3男5女)を中心とする強固なネットワークの存在であった。その親族集団が生きており、それが今回の儀礼を取り仕切ったと考えられる。

そうした親族集団は私が子供の頃の備中地方(岡山)の山村にも存在し、「株内」と呼ばれていた。「株内」は、結(ゆい)、共同儀礼、冠婚葬祭などを通して村人の相互扶助を生み出し、いい意味で村内の秩序を保っていたように思う。おそらくは、日本ではほぼなくなった「株内」がタイではまだまだ生きているのである。

2015年の2月の初め、この「株内」では近年亡くなった親族の法要が母屋で営まれた。私のもとにその風景がメールで送られてきたが、祭壇には元村長夫妻の遺影の横に北原さんの遺影が並んでいた。北原さんは完全にこの親族集団の仲間に加えられたのである。余所者に対してこれほどまでに「暖かい」社会があるだろうか。

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